ほんのりまろびね

パワプロクンポケット(パワポケ)の二次創作小説(SS)をぼちぼち書いてます。

退屈な日常への挑戦2

(初出:2007年) 

 

どんなテンションで書いたんだ…?

 

 

 


 とある日の放課後、練習前に時間があったので荷田君となぞなぞをすることにした。
「じゃあオイラから行くでやんすよ、九時と十時の間にあるものはなんでやんす?」
「抑えきれない欲望を吐き出す時間!」
 瞬時に答えてみた。部室の中が一瞬で静まり返った。荷田君には露骨に眉をしかめられた。
「答えは『と』でやんすよ……誰もアンタのアレの時間なんて聞いてないでやんす!」
「そ、そうだったのか。よし、じゃあ次は俺の番だな」
 腕組みをして唸る。こうなったら、俺も極上のなぞなぞを考えてやる。
「パンはパンでもとっても硬いパンはなーんだ」
「十乃君、真面目に考えてそのなぞなぞはちょっと知性を疑うでやんすよ」
「えーい、うるさい。そういうのは答えを当ててから言ってくれ」
「はぁ。そんなの、フライパンに決まってるでやんす」
「ええっ、や、やっぱりパンだったのか!」
 俺の背後で、岩田が手に持っていたグラブを落としながら驚愕の声を上げた。そしておもむろに立ち上がると、自分のロッカーをゴソゴソと漁り中からフライパンを取り出した。
「おいおい、なんでフライパンがそんなところに――っていうかそれをどうする気だ」
「ずっと前から気になってたんだ。名前にパンが付くから、おかしいと思ってたんだ……」
 岩田は肩を激しく上下させていた。ていうか目がイっちゃっている。熱っぽい視線でフライパンを眺める様はどう考えても危ない人だ。まあ、実際危ないんだけど。
「やめとけ岩田、いくらお前でもそれはムリだ!」
「止めないでくれ、オレはずっと前からこれを食べたかったんだ!」
 壮絶に叫ぶと、岩田はガチガチという金属的な音を立てながらフライパンに噛りついた。あまりの剣幕に目を逸らすと、岩田のロッカーが見えた。中にはパンツやパンダ、プロパンガスが見えたような気がした。俺は目を瞑り首を振ると、とても優しい気持ちでそのロッカーを閉めた。俺は何も見なかった、何も見なかったんだ。

 


 空き教室に行くと原田が窓の外を眺めながら黄昏ていた。口にくわえているのは禁煙パイポだと信じたい――それでもダメだが。
「誰かと思えば、十乃か」
「どうしたんだ、今日はPカードの日じゃないだろ?」
「ああ……だが、俺は悟ってしまったんだ。俺の体はギャンブルに蝕まれている。あの身が焼けるような伸るか反るかの瞬間を思い出すと、股座がいきり立つほどだ。俺はギャンブル無しには生きられない体になってしまったんだ」
 原田は拳を握り締めると唐突に熱弁を始めた。何も言い返すことが出来ず呆然としていると、俺は両肩をがっしりと掴まれその場に固定された。
「十乃。何か、ギャンブルの話は知らないか。何でもいい、知っていたら教えてくれ」
「え、えーと……」
 原田は普段のクールな一面からは想像できないような熱意の篭った目つきだった。ぶっちゃけ直視できなかった。答えられずに口篭っていると、肩に指が食い込むほど力が強くなった。
「何でもいいんだ、何か知っているだろう、十乃……っ」
「そ、そうだな。そういえば、日本の遥か南の方にある『幸せ島』とかいうところで、三つのサイコロを使ったギャンブルができる『プレイルーム』とかいうところがあったとか――」
「幸せ島のプレイルームか。済まないな、十乃」
「でも、もう何年か前にそこを支配してた団体が――って、原田?」
 気付けば原田は俺の目の前から消えていた。ぽつりと空き教室に一人残される。原田の立っていた場所には煙草の吸い殻が寂しげに落ちていた――やっぱり吸っていたらしい。
 数日後、日焼けした原田はどういうわけか大量のペラと共に戻ってきた。まだ飽き足らないらしかったので、今度はカードを使ったジャンケンをする船のことを教えると再びいなくなってしまった。彼が無事に帰ってくるのを祈るばかりだ。

 


「さて、何を買おうかな」
 原田から分け前として貰ったペラで豪遊するため、俺は購買部を訪れていた。あまり品揃えは良くないが、校外に出るのは少々面倒なので我慢するしかない。
「おや? そこにいるのは十乃君ですね?」
「この声は、ナオか」
 振り向くと、デジタルカメラを片手に持ったナオがいた。このパターンは奢らされそうな予感が嫌というほどするので、十分に注意を払っておく。
「珍しいですね、十乃君がここに来るなんて」
「そうでもないけどな。ペラのあった頃は監督への贈り物を買いによく来てたぞ。やっぱりこの世を支配するのは金のある奴だよな」
「すごく邪悪な顔になってるよ……じゃあ、今日もカントクさんへの贈り物を買いに来たんです?」
「バカ、俺がそんな卑怯なことをするような奴に見えるのか?」
「十乃君、言ってることが矛盾してますよ。でも、じゃあ今日はどうして?」
「ん? そりゃ、臨時収入がガッポリ入ったから遊びまくろうかと――あ」
 墓穴を掘りまくっていた。くそ、ナオの奴誘導尋問とは(違います)。
 ナオは案の定、何かを期待する目をキラキラ輝かせながらこちらを見ていた。
「十乃君、ナオっちはチョコが食べたいです」
「そ、そうはいくか。先輩から搾取され続けてはや一年、やっと手に入れたまとまったペラだぞ。俺は俺の為に使う、そう決めたんだ!」
「ぶー。でも十乃君、購買部で何を買う気なんですか?」
 唇を尖らせるナオ。そう、確かにそれが問題だった。ここには俺の目を引くようなものは売っていない。
「菓子――は、別に食べたいと思わないし、雑誌は一冊買えば十分なんだよな」
「なら、十乃君。いい話がありますですよ? 耳を貸してください」
 ナオは背伸びをすると俺の耳に口を寄せてくる。ちらりと見たナオの目が光っていたのが気になるが、耳にかかる生暖かい息がとてもそそるので忘れることにした。
「実はですね、更衣室の写真も撮ってまして……どうです、お安くしておきますよ?」
「いっ、いくらだ。それと何枚だ」
「ご安心を、親愛なる十乃君だからお安くしておきます。そうですね――五枚で百ペラでどうです?」
「よし、五十枚貰おうか」
 俺は親指をグッと上げながら所持金を全部ナオに渡した。

 


「……もう生きていけない」
 人気の無い屋上に移動した。ナオから貰った封筒を早速開けてみた。中に入っていたのは男子更衣室の写真だった。すべてを粉々に裂くと、地面に手を付きガクリと項垂れる。おのれナオ、いつか俺のアレを(ピー)して(ピー)してやる。
「と、十乃君。どうしたんですか?」
 顔を上げるとさらが心配そうな顔で俺を見ていた。俺は溢れる涙を拭きながら、写真の内容や売人には触れずに詐欺にあったということを簡単に話した。
「そうですか……世の中には悪いことをする人もいるんですね」
「まったくだ。同じ親切高校生徒として悲しいぜ」
「――そ、その、十乃君」
 さらが吃音混じりに俺の名を呼ぶ。前髪で目を覆われた顔は、仄かに朱に染まっていた。
「何か、私にできることはありますか? このままじゃ、あまりにも不憫ですし」
「さら……」
 ええ子や――俺は再び溢れ出した涙を袖で拭いながら、さらの両手を取った。あ、と小さくさらの口が動く。髪の隙間から見えるさらの両眼は、少しばかり潤んでいるように見えた。
 俺はその目を真っ直ぐ見据えると、心からの願いを口にした。
「頼む、女子更衣室の写真をくれ。あ、なんなら、さらが今ここで着替えても――」
 全てを言い終わる前に俺は屋上から突き落とされた。

 


 奇跡的に掠り傷で済んだ俺は教室に戻ってきていた。球拾いで肉離れしたことを考えると、きっと俺の怪我の度合いはアトランダムなのだろう。両親に感謝。
 自分の席で真剣に悩んでいると、カズが近付いてきた。
「どしたの、珍しく頭なんか抱えて。悩み事でもあるんか?」
「まあ、な。あーあ、俺にもカズくらい身長があればな……」
「あんまりええ事ないで~? 服は無いし、教室の扉は屈まんとアカンし」
「でも、いい事もあるだろ。スポーツなんかは基本的に有利だし、スマートでカッコいいしな」
「あはは、どしたんや今日は! 褒めてもなんもいいことあらへんで?」
 照れ隠しのように手を振りながら、満更でもないのかカズは嬉しそうに笑った。
「いやいや、純粋に羨ましいんだよ」
「ふーん? 十乃は、ウチくらい身長があったらどうするん?」
「女子風呂を覗く。それだけあれば踏み台なんか必要ない――って、カズ?」
 カズはいつの間にか俺の前から姿を消していた。周りを見回すと、こちらに危ないものを見る目を向けながら神条とひそひそ話をしているのが見えた。神条は神妙な顔つきで頷くと、ポケットから笛を取り出し思い切り吹いた。するとどこからとも無く監督生が数人現れ、俺は両脇を取られ成す術も無くどこかへ連行された。
「十乃ー、ちゃんとええ子になるんやでー」
「ちょっと待て、俺はどこに連れて行かれるんだっ!!」
 カズは答えず、ハンカチを振って俺を見送っていた。
 窓の外の校庭に視線を向ける。越後がいた。「なら九人で行くぜ」――何故か九人に分身していた。
 空に目線を向けた。太陽が煌々と照っている。今日の練習も熱くなりそうだ――生きて帰れたら。

 

 

 (終)