ほんのりまろびね

パワプロクンポケット(パワポケ)の二次創作小説(SS)をぼちぼち書いてます。

緑白雪異聞

(初出:2008年)

 

ナチュラルに貧乳設定にされてるリコさん…イメージですよ、イメージ。

 

 

 

 

 

 


 むかしむかし、あるところに緑雪姫というそれは大層美しい王女がおりました。
 雪のように白い肌、バラのような赤い唇、そして新緑の葉をイメージさせる緑の髪。胸こそ貧しく少々物足りないかな、と言わざるを得ませんが、王女はとにかくとても美しかったのです。
「ちょっと、何よその説明! 明らかに最後のいらないでしょ!」
 梨子さん、ナレーターにツッコミを入れてはいけませんよ。

 

 さて、その美貌から誰にでも愛される女性だった緑雪姫ですが、唯一それを快く思わない女がおりました。彼女の継母です。
 継母は自分が一番美しいと信じ込んでおり、また彼女の持っていた魔法の鏡もそう宣告していたため、彼女は長年満足した生活を送っていました。
 時は突然矢のように進み、緑雪姫は七歳になりました。そう、姫の胸が少々物足りなかったのはまだ幼かったからなのです。よかったですね、姫。
「その役をやらされるあたしって何なのよ……」
 細かいことを気にしたら負けですよ、姫。

 

 ある日継母は、いつものごとく魔法の鏡に向かって問いかけます。
「鏡よ鏡よ、世界で一番美しいのは誰?」
「ハッ。なんやそれ。少なくともアンタや無いで。アホメイド」
「言ってくれますね、バカ巫女……鏡なんて無様な役のあなたにだけは言われたくないですね」
「アンタかて継母やん! 知っとるか、原作やとアンタは死ぬまで踊り続けるんやで!」
「フン、そんなシーンはイメージの都合上改変されるに決まってます。どうせなら、あなたのシーンも丸ごとカットされれば良かったですけどねぇ。一人だけ人間ですらないなんて、笑っちゃいますね」
「なんやて、も一度言ってみぃ!」
「何度でも言ってあげますよ、このバカ巫女!」
 どういう経緯でこんな配役ミスをしたのかは分かりませんが、このままでは話が進まないので速やかにこのシーンはカットさせていただきます。

 

 とにかく、鏡に世界一の美貌を貶された継母は、腹いせに姫を殺してしまおうとします。
 継母は猟師を呼ぶと、緑雪姫の心臓を持ち帰るように命令します。
「というわけでアカネさん、今すぐあのバカ巫女の心臓を撃ち抜いてください」
「は、話が台本と違いますっ! これはもしかしてアドリブ、というヤツでしょうか!?」
 ただの私怨ですよ、猟師さん。

 

 そうこうあって命を受けた猟師は、緑雪姫を森に連れ出します。隙を見て姫の心臓を打ち抜き、それを証拠として持ち帰ることが本当の命令です。
「あっ、あっちにイノシシですっ!(気を取られている隙にバ☆キューンです!)」
「よーし、このリコちゃんにまっかせなさーい!」
「えっ、ひ、姫っ、そこはこのアカネめに……というか、どこから空き缶を!」
「必ッ殺、あたしの必殺技ーーーっ!!」
 姫の必殺技(エクストリーム・アキカン)を喰らったイノシシは爆死しました。この技は凄まじい勢いでドリル回転した空き缶が相手を粉砕する技だそうです。既に空き缶ではありませんね。
 あ、ちなみにこの後でスタッフが美味しくいただいていますのでご心配なく。
「へっへー、やっぱり空き缶は最高っ!」
「こ、これは逆にアカネの命が危ないのでは……」
 命の危険を感じた猟師は、緑雪姫を置き去りにして帰ります。その後で心臓を持ち帰らねばならないことを思い出し、大慌てで彼女の義姉に相談しました。その後どうなったかは分かりませんが、次の朝猟師の枕元に心臓が一つ置いてあったとだけ述べておきましょう。ホラーですね。

 

 さて、森の中で一人になってしまった緑雪姫。帰る道も分からず森の中をさ迷ううち、疲れ果てて眠ってしまいます。どこでも寝れるなんてサバイバーですね、姫。
 姫が一人すやすやと眠っていると、森の奥から六人のドワーフが姿を現します。
「ハイホー、ハイホー、仕事が……お前ら、ちゃんと歌えよ」
「少年、それを歌うと多分訴えられるぞ」
「原作にそんなシーンは無いはずだからな」
「別に仕事が好きじゃないからな、俺らは」
「そうそう。そもそも俺、風来坊だし」
「ちゃんと役、演じろよ!」
「あ、あのよ……」
 いつもの五人がいつものようにバカ話をしていると、六人目の小人が言いにくそうに手を上げました。
「む、どうした新入り」
「辰也さん、前からいただろ……」
「原作なら七人だろ? 一人少ないな、と思って」
「そりゃ、ソネムーがナレーターだからな。他には役者がいない」
 そこ、メタ全開の会話をしないで下さい。あとヘンなあだ名をつけるのも止めなさい。それとさっさと話を進めてください。
「やや、みんな見てみろ!」
 小人の一人が緑雪姫を見つけ、みんなに号令をかける。
「これは……また見事なヒンヌーだな」
「うむ、幼女役をやらされても違和感が無いほどの貧っぷりだな」
「美貌よりも前に、すっからかんな胸元に目が行くぜ……」
「かわいそうに、あまりのぺたんこさ加減に悲観して……」
「やかましいっ!!」
 眠っているはずの姫が放った空き缶により四人くらい負傷しました。自業自得です。

 

 姫を連れ帰った(誘拐した)ドワーフたちは、姫に一切の家事を要求する代わりに姫をかくまうことを約束します。そこでの生活の一部をちょっと見てみましょう。
「ほら五号ー、早く緑茶買ってきてくれる?」
「うむ、任せろ姫」
「六号、宿題やっておいてー」
「ふん、姫のご要望ならばな」
「七号は……そうだね、肩揉んで」
「はいはい……了解」
「八号と九号は晩御飯の準備ね。今日はしゃぶしゃぶがいいなー」
「しゃぶしゃぶね、そういうのもいいかもな」
「じゃ、俺は肉を調達してくるぜ~」
 なんというか、もはやどこからツッコミを入れればいいか全く分からない状況です。とりあえず、辰也君にも何か命令をしてあげてください。

 

 ところ変わって、帰ってきた猟師から何かの心臓を受け取った継母は、嬉しいような恐ろしいような微妙な気持ちでいつものように鏡に問いかけます。
「今度はちゃんと劇通りに言いなさいよ、バカガミ」
「お願いします、ってつけなきゃお断りや」
「……」
「……」
 睨みあうだけでは話は進まないので、ここもカットしましょう。
 とにかく、なんやかんやで緑雪姫がまだ生きていることを知った継母は、怒りに燃え狂い自ら手を下すことを決意します。もちろん猟師を処分したりはしません、バックが怖いですから。
 継母は怪しげな粉をリンゴにまぶすと、緑雪姫を葬るため城を後にするのでした。
「できれば鏡役に食べさせたいんですけどね、これ」
 継母、それじゃいつまで経っても世界一にはなれませんよ。

 

「ちょっと、八号と九号はまだ帰ってこないの? あたし、お腹すいたー」
 とても世界一の美貌を持つとは思えぬ台詞ですが、中々夕げの支度が整わず姫の不満はクライマックスになろうとしていました。良識派の小人が慌ててなだめます。
「まあここ、森の中だし……しゃぶしゃぶなんて無茶な注文するから」
「そもそも品がねーんだよ、ちっとも姫っぽくねえ小娘を配役しやがって」
「ああ辰也さん、そういうことを言うと――」
 直後、姫の放った空き缶が辰也君の首根っこを引き抜きました。サイボーグでよかったですね、辰也君。
 そのとき、控えめに小人たちの家の戸を叩く音がし、一人の怪しげな老婆が現れました。言うまでも無く、変装した継母です。
「もしもし、そこの綺麗なお嬢さん。お腹が空いているならこれを食べませんか」
 そう言って老婆が取り出したのは、7号の母手製のスイカカレーでした。一体リンゴはどこに消えたのでしょうか。鏡が担架で運ばれていた気もしますが、恐らく気のせいでしょう。
「あ、いいんですか? ありがとうございまーす!」
「おいリコ、しゃぶしゃぶはどうするんだよ……」
「アレだ、女は胃袋を四つ持ってるってやつだ――ぐへあっ!」
 それは牛ですよ、辰也君。余計なことを言うからまた首がすっ飛ぶのです。
 姫がカレーを口に入れた瞬間、何とも形容しがたい奇妙な味が一杯に広がります。そのあまりの微妙さに驚いた姫は、そのまま気絶してしまうのでした。
「……ちょっと強引過ぎないかな、このストーリー」
「いいんじゃないのか、最初っから適当だし」
 復活、バカみたいに早いですね辰也君。

 

 いくら経っても姫は目を醒ましません。六人の小人は姫が死んでしまったのだと思い、棺の中に色とりどりの花と共に横たえるのでした。ここ、泣き所ですよ。
「うう……胸は無くても、希望はあるだろうに……」
「ウマくないからな、それ」
「で、この後で王子様が出てくるんだよな、確か」
 この人たちは劇をするという意思があるのでしょうか。
「ふむ、確か王子様のキスで蘇る……だったな」
「あー、なんかここで突然横取りされるのか、姫を」
「それってさ、なんかおかしくね? 考えてみろよ、俺らが姫にしてきた行為の数々を――」
 文脈的に彼らは『俺らが世話したんだからキスくらいさせろ!』と言いたいようですが、彼らは基本的にセクハラをしていただけで、他と言えば専らただのパシリに他なりません。厚かましい連中です。
 さて、そんな不毛な談義の中、馬に乗った麗人、王子がその場に姿を現します。
「王子、到着……」
「ちょ、ちょっと待て! なんでよりにもよってイオリンが王子役なんだ!」
「そうだ、男役には男を使え! というかキスさせろ!」
「いや待てよ……つまりこれは、イオリンと梨子ちゃんのキス、ということか?」
「それはそれで、いいかもしれないな」
「というわけでイオリン、ぱぱっとやってしまってくれ」
「ちょっと、恥ずかしい……」
 ある意味、ベストチョイスかもしれませんね。

 

 別れのときはいつも唐突にやってくるもの。王子のキス(省略)で目覚めた姫は、王子と共に暮らすため城に帰ることになりました。小人たちとの感動の別れのシーンです。
「さらばだ姫……次に会うときはもっと成長してろよ」
「大丈夫だ、まだまだこれからだって!」
「小さいのもありだから、あまり悲観するなよ」
「王子に分けてもらえ、な?」
「全部余計なお世話よっ!!」
 感動のシーンが台無しです。
「それじゃ……帰ろ、九号君」
「おう――って、え?」
 最後の最後まで台本どおりやる気は無いのですね。
「私の、帰る場所……どんなときでも、あなたのいるところ」
「あ、ああ。なんかセリフが一気にシリアス風味だな」
「気のせい……」
 とにもかくにも、王子はどうやら姫と二人っきりで帰る気は毛頭無いようです。
 そんなやり取りを見ていた姫、馬から飛び降りると七号君に抱きつきます。
「それじゃ、アンタも一緒に帰ろっ!」
「え! げ、劇は?」
「いいじゃん、そんなの。姫もその方が幸せだろうし」
「そりゃ、お前の場合だろっ」
 こっちでもカップルですか。若いっていいですねぇ。
 進行を無視して二組のラブラブカップルがイチャついていると、どこからともなく継母と猟師と鏡も姿を現しました。もうどうにでもしてください。
「それならもちろんあなたも一緒ですよね?」
「世界で一番強い愛は私とあなたやで、絶対に」
「ではでは、みなさんで帰りましょうっ! さ、お兄ちゃんもっ」
「よし、それじゃみんなで城に帰るか!」
「うむ、そうするかな」
 こうして姫(と他数名)は、森の中に一人だけ小人を残し幸せに暮らしてゆくのでした。これこそが真のハッピーエンドですね。
 めでたしめでたし。

 

 CAST
緑雪姫:梨子
継母:めぐみ
王子:維織
猟師:茜
鏡:めぐみ

小人:世界の敵と辰也
ナレーター:ソネムー