ほんのりまろびね

パワプロクンポケット(パワポケ)の二次創作小説(SS)をぼちぼち書いてます。

緑温泉旅行・前編

(初出:2008年)

 

※この話の9主人公はただのホームレスです!

 

 

 

 

 

 


「ほれほれ、やっぱり俺の言った通りアカネは脱いだら凄いだろ?」
「何を言うか。俺のめぐみの方がどう見たって凄いだろこのロリコン
「お前らくだらない争いはやめろって。詩乃ちゃんを見ればそんなことどうでもよくなるだろ?」
「お、俺にも見せてくれよ……」
「7の主人公……お前にはまだ早い」
「そうだ、もっと大人になってからにしておけ」
「鼻血を出して倒れることになるぞ」
「だからって……上に乗らなくてもいいじゃないか……」
「だってそうしないと見えないしー」

 

 

 

 

 

 

 

「……ねえ、曽根村さん。アレいいんですか?」
「辰也君、そんなことよりこの温泉卵美味しいですよ。一つどうです?」
「あ、どうも」

 

 

 

 

 

 


 ここは人里離れた山の中、とある古ぼけた旅館の露天風呂。さらに詳しく言えば男湯。
 桃源郷(=女湯)との隔たりである塀からそっと隣を覗く影が三つ。その下で足場になってるのが一つ。のんびり温泉で卵を食ってるのが二つ。
 彼らの名は通称『世界の敵』(とそのオマケ)。今日は今日で犯罪行為に勤しみまたこの地球に敵を増やしていく謎の変態集団(とそのオマケ)である。
 彼らがどうしてこんな場所にいるのかというともちろん、
「あ、アカネはもうふらふらです~」
「アカネちゃん顔真っ赤だよ! なんでのぼせるまで入るかな?」
「決まっとるやろ? そこの看板を見てみぃ」
「『効能:お肌スベスベ・ツヤツヤ』――なるほど。だからずっと入ってるんですか?」
「その通りです。そこのバカ巫女、顔が真っ赤で茹蛸みたいになってますよ? さっさとあがったらどうですか?」
「人の事言えるんか、アホメイド。自分こそ初日の出みたいに真っ赤な顔しとるで? 一足先に拝ませてくれるんか?」
「うー……」
「むー……」
 ご存知『緑の会』がここにいるからである。本質的には仲の良い彼女たちは年末・新年を共に過ごそうという計画を立てたのだ。男性陣に意見を求めたところ、
「めぐみとなら何処へでも行けるぜ」
「詩乃ちゃんと一緒なら地獄の果てさえも楽園と化す」
「そうだな、温泉とかどうだ?」
「アカネ……さあ行こう、あの光り輝く世界へ(ネタバレ)」
「維織さんがどこかへ行こうだなんて……どうかしたの?」
 というわけで温泉に行く事になった。彼らの精神に煩悩以外のものは無いのか確かめてみたい。
 ちなみに曽根村と辰也の二人は偶然その宿に止まっていただけだ。いつぞやの一件以来親交を深めた彼らは独り者同士仲良く温泉に来た、というわけだ。というかサイボーグが温泉に入っても大丈夫なのだろうか。

 

 

 

 

 

 


「ところで9の主人公はどうしたんだ。イオリンも見かけないが……」
「む、そう言えばそうだ。どうりでお淑やか分が足りないと思ったら」
「意外と着やせするタイプだと思うんだよな、イオリンは」
「ああ、あの二人なら部屋の風呂で一緒に入ってるけど?」
「……」
 三人は同時に拳を握り締め、あとで殺す、と胸に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「で、仲良く二人とものぼせたのね」
「アカネは少し早めに出ておいてよかったです……」
 頭から湯気が出ている二人を、なんとか風呂から引きずり出し仰向けに寝かせる。その間、やたらとシャッターを切る音が聞こえたが、梨子は敢えて無視する方針にした。
「おい、俺の分も撮っておいてくれよ! 足場やってて手が離せないんだからさ!」
「任せろマイブラザー、あとで焼き増ししてやるよ」
「梨子ちゃんも俺が撮っておこう」
「あ、俺ははじめっからアカネしか撮ってないから」
 やっぱり空き缶を投げた。何かが崩れる音と男たちの「あ、あーっ!! 俺のカメラがーっ!!」という断末魔が聞こえたが軽く無視した。そもそも浴場にカメラを持ってくるな。
 ちなみに、効能通り温泉に長いこと浸かっていたアカネの肌はスベスベのツヤツヤになっていた。梨子は自分も少しくらい入ればよかったかなと思ったが、盗撮犯たちのことを思い出し考えを雲散させた。まあ彼らの野望を打ち砕いたのも梨子なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「えー第一回彼女たちが露天風呂から上がってしまったのでどうしようか会議ー」
「わー」
「わー」
「無理にタイトルつける必要はあったのか?」
 男たちはめげずに次の作戦を立て始めていた。彼らのモットーは「ポジティブに!」だった。実によく人柄を表しているとしか言いようが無い、ホントに。
「で、どうするかね」
「いや、そこは無難に何もしないべきでしょ……」
「はい先生!」
「なんだね6の主人公君」
 突然学校ごっこになった。何度も言うようだが彼らの行動に意味は無い。
「ここは男女平等の国日本だと思います!」
「続けろ」
「今こそ男女のボーダーを越えるべきだと思うんだよ、先生!」
「よく言った6の主人公!」
 熱い抱擁を交わす二人。お前ホントに未来人か。
 そんな中、7の主人公がおずおずと手を上げた。
「あ、あのさ。具体的にはどうする気さ?」
 声が上ずっている。なんとなく予想してるけど一応聞いてみようかなーという感じなのだろう。
 そして返答は親指を突き出しながら返された。
「決まってるだろ? 目の前のベルリンの壁を壊すんだよ!」
 ビシッとモラルの象徴である塀を指差す。その表情は無垢な子供のように輝いた笑顔だった。7の主人公には眩しすぎて直視できそうに無かった。
「未来の銃持ってきたぞー」
「CCRの特注銃も持ってきたぞー」
「よし、ファイヤーっ!!」
 一瞬の空白を置いて、目の前の塀は消炭と化した。ここまでする必要はあったのか。
「それ、突貫だーっ!!」
「おーっ!!」
 一揆か。男たちは唸り声と共に女風呂へと超えてはいけないボーダーを越えていった。タオル一丁で。
 女性の叫び声と渇いた金属音、そして男たちの断末魔(二度目)が聞こえ、辺りにはようやく静寂が戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「これって俺たちも責任取らされるんですかねぇ?」
「さあ? それより辰也君、美味しい地酒ですよ。どうです?」
「あ、どうも」
 混浴になってしまった露天風呂を見ながら辰也は寒々と言った。曽根村はどこまでもクールだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーむ、見事な空き缶術だ。いい彼女を持ったな7の主人公?」
「全くその通り。まさか俺たち四人が一蹴されるとは……」
「梨子ちゃんが相手ならお前のMっ気も満たされるだろうなぁ」
「誰がMだっつーの」
 額に赤い痕を作った四人は大人しく男湯の脱衣所に退散していた。次の作戦を考えている、とも言う。
 ああ大人しく梨子と二人っきりにさせてくれないかなー、なんて7の主人公が考えていると、隣の男が何かを思いついたようにぽんと手を打った。絶対ろくでもないことだ――7の主人公はこのときほど9の主人公の判断を尊重した事は無かった。
「諸君、温泉といえばなんだね?」
「はい! 覗きであります少佐!」
 どうして即答するんだ。
「それも合っているがもうそれは行動済みだ。他には?」
「はい! 部屋に帰ったら布団が一つしか無くて「すいませんねぇ」とか女中さんにいわれてラッキーと思いつつも彼女に近付かないでよねとか言われつつ電気を消すとまだ起きてる? とか聞かれて怖いからトイレに着いてきてそれで帰ってきたら距離が近くなっててそのまましっぽりと」
「それも合ってるがなんでそんな限定的なんだ? 7の主人公、君の答えは?」
 合ってるのか。
 指名された7の主人公は露骨に嫌そうな顔をしながら少し思案しはじめた。この辺が彼が若いながらに『世界の敵』と仲良くやっていけるポイントなんだろう。
「そうだな……卓球とか?」
「ぴんぽーん。大正解!」
 そうか、なるほどと手を打つ他の二人。それでいいのか。
「汗を流したあとにする軽い運動! はじめは仲良くラリーをしていたはずが段々本気になり、最後は勝負に入る! 機敏に動くからだ、はだける浴衣! そして汗かいたからもう一回お風呂行こうかというオマケ付き! これを除いていいのか? よくない!(反語)」
「なるほど……やるじゃねえか、若いの」
「大したタマだな、将来が楽しみだぜ!」
「なんでヤクザ風……」
 そして四人は足取りも軽く浴場を後にした。なんだかんだ言いつつ7の主人公も楽しみにしているあたり、やはり男はケダモノである。

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで卓球をしましょう」
 男四人の目はキラキラとビー玉のように輝いていた。ちなみにちゃんと卓球用具は手に持ってある。欲望のためなら何でもするというか何というか。
 梨子は呆れの視線を男たちに満遍なく浴びせた。
「何が『というわけ』なんだか……覗きに対しての謝罪は一切無いのね」
「梨子ちゃん、俺たちは自分が正しいと思ったことを曲げずに通して生きているんだ。だからこれはヒーローの報酬なのさ(ネタバレ)」
「さ、さすがお兄ちゃんです! カッコ良すぎます!」
「いや、言ってる事はカッコいいけどやってる事がダメダメだから。詩乃さんとめぐみさんも何か言ってやってくださいよ! 裸撮られたんですよ?」
 そう言われると二人は顔を赤くして俯き、それぞれの伴侶の下へ駆け寄り腕に抱きついた。いいのかそれで。梨子は体から力が抜けていくのを確かに感じた。
「ほら、何も無いだろ? というわけで卓球しようぜ」
「はぁ……もうなんか反論する方が間違ってるような気がしてきた」
 ついに最後の常識人が陥落した。もうダメだこいつら。

 

 

 

 

 

 

 

 


「まあ折角ペアが四組あるわけだから、ダブルスでトーナメントができるな」
「無難だな。この大会は『愛の夫婦卓球トーナメント』と名付けよう」
「いややわぁアナタ、愛妻だなんて。きゃっ」
 誰もそんな事は言っていない。
 その様子を見ながら、めぐみは夫の腕に抱きつきこう言った。
「あなた、あのバカ巫女とは決勝で当たるようにしましょ。そこで蹴散らします」
「ふん。出来るもんならやってみろ、や!」
 こうして適当に組み合わせが決まった。さあ一回戦をはじめようというところで、7の主人公が待ったをかけた。
「なあ、優勝商品とか無いのか?」
「7の主人公よ……モノより思い出という言葉を知らんのか」
「そりゃそうかもしれないけどさ、何かあったほうが燃えるじゃないか」
「一理あるわね。私もアンタの意見に賛成!」
「アカネはお兄ちゃんの熱い(検閲)でいいですっ」
「いや、それ茜ちゃん限定だから。商品ってもなあ……なんかあるかな?」
 男の面々に疑問を投げかけるが一様に首を横に振った。唸る一同。
 そして8の主人公が名案とばかりに声を張り上げた。
「そうだ、さっき撮った盗撮写真でどうだ?」
「何を言っているんだ、確かに凄く欲しいがカメラは全て入水しておじゃんだろうが」
「ああその通り。もったいない事をした……」
「あのさー、そういう会話は男だけのときにしてくれる? ていうかもはや盗撮でもなんでもないし」
 文句を言う梨子を軽く無視し、8の主人公は不敵に笑った。
「甘いな諸君、俺のカメラは――CCR特注の防水カメラだ」
「すげー!」
「カッケー!」
イカスー!」
「さすがお兄ちゃんです!」
 男たち(+α)の歓声が8の主人公を包んだ。職権乱用とかそういうレベルを超越していた。
「でもいいんですかお兄ちゃん、優勝以外だとそれは取られちゃうんですよ?」
「いいんだ、俺にはアカネさえいればな……」
 ニヒルに決めた8主人公。アカネは感動していた。もう何も言うまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一回戦は5ペア対7ペアだった。別に写真は欲しくはないのだがとりあえず負けたくない梨子と、夫のために躍起になるめぐみの試合である。
 観戦席の8の主人公は既にカメラをスタンバっている。空き缶を喰らってもCCR特注なので問題無いとその顔は物語っていた。梨子はもう諦めている。
「それじゃあ私から行きますよ、ハッ!」
 めぐみのサーブからゲームがスタートした。卓球のダブルスは二人が交互に打たないといけないため、そういった意味では強ち夫婦のコンビネーションを試されているといっても間違いではない。
 下馬評では空き缶を自在に操る梨子のいる7ペアが優勢かと思われたが、5ペアが意外にも猛攻を見せた。めぐみが予想外に守備範囲が広いのだ。男対決でも年齢を重ねている5の主人公が圧倒的に勝負慣れしている。勝負は一方的に進んだ。
 ちなみに試合中の細かい描写は決して面倒だからしないのではない。卓球は最高速近くなると200キロも出るから描写すると嘘っぽくなってしまうのだ。決して面倒だからではない。
 そんなことを言っているうちにスコアは10-4。11点先取なので5ペアのマッチポイントということになる。
 7の主人公は額の汗を拭った。どうして梨子は汗一つかかないんだ、これじゃあ当初の目的が、と思っていたことに対しての汗であるとは誰も気付かない。意外と余裕である。負けているというのにその口はふっと歪んだ。
「ふふふ、こうなれば奥の手を使うしかないようだな……」
「何? 何か必殺技でもあるというのか、7の主人公」
「アンタねー、そんなのあるならもっと前に使いなさいよー」
「ふっ、できれば使いたくなかったんだけどな……」(BGM:哀しみの戦い)
 そういう7の主人公の体を七色の光が縁取る。そう、これは7の主人公が強く心に願った時に生まれる幻影。そして光は分離し、二体の超戦士が具現化した。
「レッド参上!」
「ブルー参上!」
「頼んだぞお前ら!」
「任せろ、ヒーローの力を思い知れ!」
「いや、反則じゃないのかそれはーっ!!」
「はははは、勝てば官軍なのだよ!」
 結果、10-11で7ペア(?)の勝ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「ダークホースです……」
「やるじゃねえか、7の主人公……」
「ざまーみろダメメイド! 略して駄目イド!」
「キーッ、くやしー!」
「えっていうか今の私たちの勝ちでいいの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 第二回戦は6ペアと8ペアだ。男は片や未来人で強制労働所帰り、片やCCRのトップエージェントと双方引けを取らない。勝負は女性の腕でつく、そう予想された。
 ちなみにカメラは今5の主人公がスタンバイしている。梨子は以下略。
「ふっ、来い未来人……卓球が何たるか教えてやるぜ」
「舐めるなよ、未来の卓球術を見せてやるぜ」
 それにしてもこんなに未来未来と機密事項を言いふらしていいものなのだろうか。彼らの行動に謎は尽きない。
 6の主人公のサーブ、ネットを低い位置で越えて鋭く8の主人公の懐に切り込む!
「甘い!」
 8の主人公は手首だけでラケットを回転させボールに強烈なトップスピンをかける。二重の回転が詩乃を襲う!
 当然の如く詩乃はスルーしてしまった。8ペアに一ポイント入る。
「くっ、あのサーブを返すとは……」
「言わなかったか? 俺は昔『テーブルテニスの王子様』と言われていたんだ」
「カッコイイですお兄ちゃん!」
 そうでもない。パクリだし。

 


(以下、第二試合はダイジェスト版でお送りします)

 

「これがアカネの頭脳卓球です! えい!」
「な、なにぃ! ボールが見えないだと!」
「人間の死角を利用させていただきました」

「喰らえ、CCR奥義!」
「トップスピンにさらにトップスピンをかけて返す……速度が4倍や!」
「いえ、0になるかと……」

「人間の関節はこの角度には曲がりません!」
「ぐおっ、腕が、腕がーっ!」

「これでゲームセットだな、ラブゲームで俺らの勝ちだ」
「さすがですお兄ちゃん!」
「いや、これは俺とアカネの二人の力だろ?」
「はいっ! ラブパワーの勝利です!」
「いいなー、俺も梨子に『ラブパワーの勝利よ』とか言ってもらいたい……」
「いや、アンタのはラブとかそういう問題を超越してたでしょ」
 この中にまともなカップルはいないのだろうか。
 まあ兎にも角にも勝者二組が決まり優勝決戦である。ちなみに8の主人公に右に左に翻弄されていた詩乃の浴衣が少しはだけていたのを5の主人公が撮りまくっていたのは言うまでも無い。CCR特注品は無音シャッターだった。
 決勝で戦いを誓った二人は見事にどっちも敗退である。二人はなるべくお互いの目を見ないようにしながらベンチの両端に座った。相手が悪かったとしか言いようが無い。合掌。

 

 

 

 

 

 

 


「相手はヒーローか……」
「相手にとって不足無しですっ」
 お前ら他に言う事無いのか。
 対する7ペアは既にヒーローがスタンバイしている。卓球ラケットを持ち腰を曲げる全身タイツのヒーロー、傍から見ればまんま変質者である。
「私たちは決勝戦も見てるだけなの?」
「だってあいつら強いし……というわけでやってしまえレッド、ブルー!」
「任せろ。いざとなったら負けるように洗脳してやる」
「いやだったらはじめからそれを使えばいいんじゃないのか?」
「なるほど。さすがは頭脳派だな」
「まあな」
 びびびー。
 決勝戦、11-0で7ペアの勝ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあ約束だ。ほれ7の主人公」
 そう言ってフィルムを渡す8の主人公。カメラはもちろん大切に保管してこれからも使う予定だ。
 梨子は隣の男の掌にあるフィルムを燃やしたい衝動に駆られたが、まあ今じゃなくてもいいかなと思い直した。哀れ7の主人公。
 7の主人公はさっそく現像できる場所は無いかと周囲をキョロキョロ見渡し、そして廊下の奥から悠然と歩いてくる二つの影を見つけた。
「あれは……9の主人公と維織さん?」
「なにっ」
「イオリンは浴衣か?」
「やっぱり着痩せするタイプか?」
 男たちの半ばセクハラとも取れる発言を軽く無視しし、9の主人公は卓球台に置いてあったラケットを握って二三回素振りした。
「温泉で卓球とはなかなかいなせじゃないか。だが俺を差し置くのはよろしくないなぁ?」
「な、何が言いたい?」
「そのフィルムを賭けて勝負だ! 俺はお前らと温泉に行かなかったからすっごく欲しい!」
 ここまで欲求に素直だとむしろ感心してしまう。だがこの提案に男たちは猛反発した。
「おいおい待てよ9の主人公? 俺たちはちゃんとトーナメントを組んだんだぜ?」
「そうだ。いきなり乱入ってわけにはいかないだろ? ところでイオリンの写真とか無いの?」
「やっぱり着痩せするタイプだろ?」
 詰め寄ってくる男たち。9の主人公は目配せし、三人にそっと耳打ちした。
「あとで維織さんのお着替え写真をやろう」
「というわけで9の主人公君はシードということになりましたー!」
「これから最終決戦をはじめまーす!」
「お前ら、買収されたな!」
 7の主人公にそ知らぬ顔で答える他の男たち。7の主人公は憤りを露にしながらも切り札を思い出し落ち着きを取り戻した。
「まあいいさ、俺には絶対無敵のヒーローがいるからな……ホームレスには負けないぜ!」
「甘いぜ。俺はこんなこともあろうかと寺門に少森寺拳法を少し習ってきたんだな」
 そんな大層なものを卓球に使えるのかは甚だ疑問である。
「ついでに白に卓球のなんたるかも教わった。技と心、双方を備えた俺に勝てると思うか?」
「くっ、だが維織さんはただの女性だろ? 少々後ろめたいが集中砲火してやるぜ」
「大甘だ。この日の為に維織さんは修行を積んだ。そして編み出した必殺技『維織スパイラル』は絶対無敵の弾道を描く」
「な、なにぃ……」
「ははは、写真は貰ったぞ! さあ来い!」
「くそぅ……行け、ヒーロー!」
 ずびびー。
 ホントの最終決戦、11-0で7ペアの勝ち。

 

 

 

 

 

 

後半へ続く

 

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