ほんのりまろびね

パワプロクンポケット(パワポケ)の二次創作小説(SS)をぼちぼち書いてます。

緑首脳会談

 (初出:2007年)

 

再掲SSは基本的に軽く校正するようにしているんですが、今回はほぼそのままです。

自分でも見返す勇気が…。

 

 

 某月某日、とあるホテルにて会合が行われた。
 参加者は男女合わせて数えるほどしかおらず、かなり小規模なものだった。
 ホテルの従業員たちはいつもと同じようにそれぞれの職務をこなし、これもまたよくある宴会のひとつとしかみなされていなかった。
 この集会が、どれほど重要なものかも知らず――。
 そう、この会合こそがこの数年後に発売され、ミリオンヒットを記録する事になる『パワプロクンポケット メキメキR』発売のきっかけとなった『緑首脳会談』だとは、この時はまだ、誰一人として気付く由が無かったのだ。
 今回はその当日、会場にこっそりと仕掛けられていた盗撮用カメラからその内容をお届けしたい。
 本邦初公開である。チャンネルはそのままで。
 と、本編に移る前に。
 ここで『パワプロクンポケット メキメキR』について少し解説をしておこう。
 簡単に述べてしまえばギャルゲーなのだが、ただのギャルゲーとは異なり、攻略できるヒロインの総数がなんと五十人を超えるのだ。勿論、通常ならば彼女にする事ができなかった『ようこ先生』や『ヘルガ所長』や『イソミソ』たちの攻略も可能となっている。隠れキャラとして『鬼鮫アニキ』も攻略できる(攻略される?)。
 エンディング総数は百を超える。それぞれにハッピー・バッドエンドがある他、キャラによっては『血縁エンド』と『非血縁エンド』が設けられている(茜や由佳里など)。コアな趣味のあなたにもオススメな一作となっている。
 PS4でディスク四枚組みで発売された『パワポケR』は今なお各国で翻訳され続けている。PCでの非全年齢対象版を望む声も多い。
 閑話休題。というかそろそろ本題に入らないとこれだけで話が終わってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 どこにでもある普通のホテルの、普通の会議部屋。
 時刻は開始予定の十分前。
 まだ誰もいない部屋のドアを、長い緑の髪をツインテールにした少女がゆっくりと開けた。
 彼女の名は星野めぐみ。
 かの『パワポケ5』で援助交際という社会問題をテーマに数々の重厚なイベントを担っていた彼女候補の一人である。
 予定時刻より少し早めに来た彼女はほっと一息つくと席に着いた。時計を覗き、まだ時間に余裕があることを知った彼女は一人物思いにふける。
 どうでもいいけど、あざとさが炸裂しているメイドよりも、どこか清楚さも伴うウェイトレスの方が人気はあるんじゃないだろうか。そんなことないのだろうか。私もそろそろメイドに転換したほうがいいのかな、時代の流れには逆らえないしなー。そんなどうでもいい事をめぐみ嬢が考えていると、予定時刻ほぼぴったりに二人目の緑の君が登場した。
 緑の長い髪に何故か巫女装束の少女、蕪崎詩乃嬢である。
 彼女は『パワポケ6』で巫女・関西弁・女子高生と他の候補を寄せ付けない攻撃力を誇ったお方である。料理が下手だがイベントをこなすうちに段々上手くなってゆくという演出もあり、虜になったファンも多い。
 詩乃嬢はめぐみ嬢にぺこりと会釈をすると、めぐみ嬢の向かい側の席に座った。めぐみ嬢も会釈を返すが、それ以上のコミュニケーションは無い。『緑の会』は同盟だが、盟友は同時にライバルでもあるのだ。馴れ合いは許されないのだろう。
 やっぱりただのウェイトレスじゃ攻撃不足よね、何か新しいジャンルを開発しないと――めぐみ嬢は自らの発展のために脳をフル稼働させ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 場所は変わって、ここはモニター室。『緑首脳会談』の映像を生で見る事ができる唯一の部屋だ。
 『緑の君』たちは監視されていることは知らない。
 見られる人物は限られていて、『緑の君』たちの彼氏のみである。ちなみに彼らは通称『世界の敵』と呼ばれる。
「お、詩乃ちゃんが来たぞ……って、何故に巫女?」
「そりゃ巫女だから当たり前だろ。むしろ巫女装束以外に何を着ろと?」
「いやその見解もどうかと。めぐみちゃんは俺の専属メイドだが私服も許可しているぞ」
「それにしてもいいなあ、お前らの彼女は属性があって」
「何を言うか、お前の梨子ちゃんだって立派な少女だ。胸を張れ、胸を」
「ああ……俺も梨子に『お兄ちゃん』とか言われたい……」
「残念だったな、それはアカネだけの特権だ」
「くっ、羨ましい……」
 基本的にダメダメである。
 突っ込み役のメガネがいないとこうなるから主人公は恐ろしい。

 

 

 

 

 

 

 

 


「ごめんごめん、少し遅れちゃったかな?」
「お姉ちゃんにお化粧を教えてもらってたら、すっかり遅くなってしまいました!」
 続いて三人目と四人目の緑の君が姿を現す。
 緑の髪を後ろで結った石川梨子嬢と、別の生き物のように動く緑のアホ毛が印象的な高坂茜嬢だ。
 梨子嬢はどこからともなく空き缶を取り出し主人公をイジメるキャラかと思いきや、告白シーンで立場が一転ししおらしくなったくだりはさながらツンデレ・ブームの前兆だ。自分を飾らないストレートでサバサバとした性格は、主人公とのテンポいい漫才のような会話を生み人気を呼んだ。7での人気は彼女と芹沢真央嬢で完全に二分していると言っても過言ではない。かも。
 茜嬢は8の濃ゆい彼女候補陣の中から随一の人気をもぎ取った実力派である。「妹にしてくださいっ」に始まり、「アカネは身も心も主人公さんに奪われましたっ」を通過し、「高校を卒業したら結婚しよう、アカネ」に終わるストーリーはスタッフの総力を使っているのではないかと疑いたくなる出来栄えと力の入りようだ。見方によっては彼女で『緑の会』が確立したと言えるかもしれない。
 この若手二人は前の二人と違い和気藹々とした様子だ。さしずめライバル視しているのは一人目と二人目だけなのだろう。
 確かに巫女とウェイトレス(メイド)、二大属性とも言える組み合わせだ。
 二人が部屋に入ってきたので、めぐみ嬢と詩乃嬢の冷戦も一旦打ち止めになったようだ。四人での和やかな談笑がはじまった。内容は専ら自分の彼氏の自慢話である。この会話を『世界の敵』が盗み聞きしていることを想像すると、彼らが何故そのような蔑称で呼ばれているのかもお分かりいただけるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 


 一方、その『世界の敵』の面々も彼女自慢を始めていた。
「やっぱり俺のアカネが一番だろ? 頭良いし、妹で妻だし、脱いだら凄いらしいし」
「甘いな、俺の詩乃ちゃんは脱がなくても凄い! 巫女だからな!」
「おうおう、それなら俺のめぐみちゃんだって凄いぞ。鼻血モノだ」
「くっ、そういう話だったら梨子だって……」
 要はみんな自分が一番である。そんな中、一人だけその会話に参加しない男がいた。
「おい、お前もこっちに来て話せよ9の主人公」
「そうだぞ、お前の維織さんも何か自慢することぐらいあるだろう」
「いや……俺は別にいいよ」
「なんだ? まさかお前、維織さんに不満があるとか……」
「違う違う! ただ……お前らの話があまりに低次元でな」
「なんだと! 彼女賛歌をして何が悪い!」
「まあまあ……彼には彼なりの趣味があるんだ、放っておこう」
「チッ、分かったよ」
 四人は再び自らの彼女に対しての情熱を露見させた。そんなやりとりを見つつ9の主人公は一人、
「お前らには分からんのさ……女性に餌付けされるという快感が」
 と呟いた。
 やっぱダメだコイツら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定開始時刻三十分を過ぎたあたりで、ようやく最後の緑の君が姿を現した。
 ちなみにいつもの事なので他のメンバーはさほど気にしない。
 五人目の君の名前は野崎維織、通称イオリン(仮)。
 女性に餌付けされるという新鮮さ、物臭な女性の世話をするというシチュエーションが彼女の人気を爆発させた。彼女の付き人でもある准使用人の効果も相まって、9のベストガールフレンド賞(通称BGF)にノミネートされる日も近い。
 五人が揃い、ようやくここに『緑首脳会談』が開かれた。
 ドアから二人の男性が入り、前方にある席に並んで座った。
「では、皆さんお揃いのようなので緑首脳会談を始めます。私は進行役の曽根村です」
「えっと……アシスタントの上川辰也です」
 ちなみにこの二人も緑髪のようだが『緑の会』とは一切関係が無い。髪が緑だからなんとなく呼ばれただけだ。なんとも不憫な話である。
「時間も押しているので早速始めましょう。まず近況報告をお願いします。星野めぐみさん」
「はい――同棲を初めてもう六年が過ぎますが、私たちは相変わらずラブラブです。この間も二人で温泉に行ってきました。もう彼ったら、凄いんですよ? その時だって(中略)というわけで、幸せな生活を満喫してます」
 めぐみ嬢の数分に渡る近況報告が終了した。
 ちなみに公共の場には発信できない会話が含まれていたので省略させていただいた。ご了承願いたい。
 辰也アシスタントは既にダウン気味だった。「俺はお前らのノロケ話を聞く係かよ!」と顔が語っている。ちなみに曽根村は割と普通だ。
「はい、では次。蕪崎詩乃さん」
「はい――私たちは、もうすぐ結婚します。実は私の彼は未来人なんですけど(ネタバレ)、彼は未来に帰ることよりも、私と一緒にいることを望んでくれたんです。もう、私が事故に遭って寝たきりになってたときなんか、毎日お見舞いに来てくれたんですよ! 退院してからもずっと家を訪ねてきてくれてー、高校卒業したら結婚しよう、って言ってくれたんですよー! キャー!」
 一人顔を染める詩乃嬢。辰也アシは「早く終わらないかなあ、つーか時間が進むの遅くね?」という風に時計を五秒おきぐらいに眺めている。
「わ、私のお兄ちゃんのプロポーズ台詞をパクられました!」
「ていうか詩乃さん、もう高校卒業してから三年くらい経ってるじゃん……」
「いいんです。彼にも事情があるんですよ。お金とか……(ぼそっ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおっ! すまない詩乃ちゃん、俺が不甲斐ないばっかりにいいいいいいい……」
「落ち着け6の主人公! 金が無いならプロ選手の俺が貸してやる、だからお前は彼女の幸せだけを考えろ!」
「うう、8の主人公……いいヤツだな、お前……」
「いや、このくらいどうってことは無いさ。あー、ところで一つ頼みごとがあるんだけど?」
「なんだよ、お前の頼みなら何でも聞いてやるよ。言ってみろって」
「ああ、今度詩乃ちゃんの巫女服貸してくれ。アカネに着せてみたい」
「お安い御用だ、兄弟よ!」
「おお!」
 びしっと親指を突き出しあう二人。
 彼らはいつだって幸福感に満ちている。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ありがとうございました詩乃さん。では次に梨子さん、お願いします」
「はーい! 私たちは相変わらず楽しくやってます! アイツは低収入であんまり贅沢とかさせてくれないけど、そんなものは愛があれば乗り越えられまーす! お金なんかよりも大事なものを教えてくれたのはアイツだからね。多分これからもずっと愛し合っていくんだなーって思います! 以上!」
 短めの報告であったが、辰也アシは完璧にノックダウンしていた。コテコテのノロケ話を三人続けて目の前でされたら誰でもこうなる。辰也アシは平然と職務をこなす隣の男を素直に尊敬した。まあ曽根村進行役も口の端をピクつかせていたが。というか誰に頼まれたんだこんな仕事。
「ありがとうございました。では四人目、高坂茜さん」
「はーい! この前結婚したばかりの新婚で新妻なアカネですっ!」
 詩乃嬢が茜嬢をギロリと睨んだ。当の茜嬢は全く気にしていない様子である。
「私とお兄ちゃんとの思い出は、それこそエベレストよりも高く、マリアナ海溝よりも深いものなので話は山のようにあるのですが、全部話していると明日になっても終わらないので我慢します! とりあえず、アカネは今とっても幸せです!」
「はいはーい、質問やー」
 茜嬢が綺麗にまとめて終わろうとした矢先、詩乃嬢が手を挙げた。声が地に戻っているところを見ると詩乃嬢は茜嬢をライバル視してるらしい。確かに茜嬢は第三勢力である妹属性である。詩乃嬢としてはうかうかしていられないのだろう。
「結婚したならもう『お兄ちゃん』やないやん? 『あなた』とか『ダーリン』とか呼ばへんの?」
 いつの時代だ。詩乃嬢は意地でも茜嬢の属性を消してしまいたいらしい。
「アカネもそう言ったんですけど、お兄ちゃんが『いやアカネ、呼び方は今までのままでいい』って言うので……」
「……そか、ならええんや」
 詩乃嬢の脳内で自分の彼とアカネの彼が天秤にかけられ、アカネの彼氏は四散したようだった。もう満足なのか詩乃は引き下がる。それにしても彼女たちの彼氏はどうしてこうもまともな人がいないのか、そこが最大の疑問である。
「では最後に、野崎維織さん。お願いします」
「……」
 本を読んでいる維織嬢に曽根村進行役が声をかけても反応しない。隣に座っていた茜嬢が声をかけると、維織嬢は仕方が無さそうに本を閉じ、一言だけ呟いた。
「……昨日も激しかった」

 

 

 

 

 

 

 

 


「おいっ! 問題発言だろう今のは!」
「どういうことだ、説明しろ9の主人公! できれば状況とか詳しく!」
「羨ま……卑劣な奴め!」
「ホームレスのクセに生意気な!」
 言いたい放題である。『世界の敵』の中でも彼は異端らしい。
「いや、お前ら絶対勘違いしてるって……ただ単に筋トレしてただけだよ、筋トレ。維織さんはその手伝い」
「なーんだ、そういうことか。はっはっは」
「俺ははじめから分かっていたけどな」
「そうだよな、筋トレ筋トレ。うんうん」
「ホームレスだしな」
 思い思いのことを言いつつ肩を叩き、モニターの注視に戻る四人。みんな表情は爽やかだ。
「……まあ、ただの筋トレじゃないけどな」
 最後の一言は誰の耳にも届かなかった。

 

 

 

 

 

 


「ではみなさんの近況報告が終わったようなので、今日の本題に入りたいと思います。今日の議題は『果たして誰の彼氏が一番なのか?』です」
 おいおいさっきまで散々お前らの彼氏の話は聞いたよ、と一人心の中でツッコミを入れる辰也アシ。直接言う勇気は無いらしい。
「そのまま議論されても構わないのですが、埒が明かないと思われるので、あらかじめ用意していただいたVTRによって判定をしたいと思います。判定員は私ですが、異論はありますか?」
 五人は沈黙をもって肯定とした。横で「えっ、俺は?」と目で訴えているアシがいたが。
「無いようですね。それでは早速参りましょう。まずはめぐみさんです」
 そう言って曽根村進行役は傍にあった映写機のボタンを押す。スクリーンが下り、部屋が暗くなった。スクリーンに一組の男女が映し出される。

 

 

 

 

 


「ねえあなた、今日の晩御飯何が食べたい?」
「めぐみ!」

「あっ、可愛いポーチ……ねえ、どっちの方が可愛いかな?」
「そりゃめぐみに決まってるだろ?」

「見て見て! 子犬! 可愛いね~、ウチでも飼いたいね?」
「バカ言え、ウチには可愛いめぐみがいるからいらないさ」

「今度の夏、ハワイとパリどっちに行きたい?」
「めぐみがいるなら俺にとってはどこでも天国さ」

「あなた、今日もチームメイトと飲んできたの? 呆れた……仕事と私、どっちが大事なのよ!」
「そりゃ……めぐみに決まってるじゃないか」
「あなた……」
「めぐみ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、辰也君」
「へ!? は、はい! なんですか!?」
 映像が終わると同時に、曽根村進行役が辰也アシを小突いた。あまりのコテコテっぷりに気を失いかけていた辰也アシは現実に引き戻される。
「映像が終わったんですから、早く『あまーい!』と叫びなさい」
「な、なんで俺が!」
「私じゃキャラ違いだからですよ! 早く!」
 もしかして俺ってそのためだけにいるかよ、と自分の存在意義に疑問を持ち始める辰也アシ。覚悟を決めて、腹に息を送った。
「あまーい!」
「そうですね辰也君。具体的に言えば300甘くらいですね」
 いまいち凄いのか凄くないのか分かりかねる単位だが、めぐみ嬢は素直に喜んでいた。詩乃嬢は少しむっとした顔でそれを見ている。
「そこそこやるみたいやないか、ヘッポコメイド……」
「まあざっとこんなもんですよ、ボケボケ巫女さん」
「ふん……減らず口叩いてられるのも今のうちやで。進行さん! さっさとウチのも流してや!」
「分かりました。それでは詩乃さんのVTRです」

 

 

 

 

 

 

 


「もうすっかり桜が咲く季節なんやなー、ウチが事故に遭った頃はまだ秋やったのに」
「そうだね……詩乃ちゃんもすっかり巫女服ご無沙汰だしね」
「うん……ずっとお見舞いに来てくれてたんやろ? ありがとね、ホンマに」
「いや、当たり前だろ? 彼氏だし、さ」
「えへへ、そうやね」
「ああ」

「なあ、詩乃ちゃん……俺、ずっと言いたかったことがあるんだけどさ」
「ん? なぁに?」
「詩乃ちゃんが高校卒業したら……結婚しよう」
「ホンマに!? いいの?」
「ああ、勿論。むしろ俺の方こそ、俺なんかでいいのか?」
「当たり前やん! ずっとお見舞いに来てたんやから、これからもずっと面倒見たってや、な?」
「ああ……ずっと、見守ってやるよ。詩乃ちゃんの、隣で」
「うん……」

 

 

 

 

 

 

 

 


 曽根村進行役が辰也アシの脇腹をつねった。辰也アシは顔をしかめながら叫ぶ。
「あ、あまーい!」
「そうですね辰也君。具体的に言えば350甘くらいですかね」
「やったー! 見よったかメイド! これからは巫女の時代や!」
「い、異議あり! ただのプロポーズじゃないですか! どうしてこの小娘の方が甘いのですか?」
「詩乃さん、これはまだ高校生のときの話ですよね?」
「勿論や」
「というわけで、青春補正です。+100甘されます」
「な……」
「そういうことや、年増メイド」
「きーっ、覚えてらっしゃい!」
 ていうか二人ともキャラ変わってるし。
「それでは次に参りましょう。梨子さんのVTRです」

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、もう夜か。今日も楽しかったなリコ?」
「うん! アンタといると時が流れるのが早いよ、ホント」
「ホントはもう少し一緒にいたいけど……明日も朝から練習なんだ、ゴメンなリコ」
「いいよそのくらい。私は夢を追ってるアンタを見るのが好きなんだから、さ」
「ああ……ありがとなリコ。それじゃ、この辺で別れるか。じゃあなリコ! また明日!」
「うん、じゃあね! 練習頑張ってね!」
「おう!」

「ねえ!」
「ん? リコの声? どうしたんだよー、道の反対側からさ!」
「私さー!」
「えー? 聞こえねーよ! もっと大きな声で言えって!」
「もー、仕方ないな……へへ、大好きだよー!!」
「げっ、ば、バカっ! そんなこと大声で言うなよっ!」
「アンタが言ったんだよー、じゃあねー!!」
「待てよー、リコー!!」
「?」
「お前だけ好きなこと言って帰るなよ! 俺にも言わせろ!」
「うん……じゃあ、言ってよ!」
「愛してるぞー! リコーっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あまーい!」
 今度は注意される前に言ってやったぞ、少し得意げに曽根村進行役を見る辰也アシ。直後、なんてどうでもいいことを誇ってるんだろうなあ俺はと自己嫌悪に陥った。
「そうですね辰也君。具体的には400甘くらいですかね」
「やったー! やっぱり道路挟んでの愛の告白はポイント高いよねー」
「そうですね。青春補正と組み合わせると凶悪なコンボです」
「色々考えたんだよー、どの時間がいいか、とかさ」
「夜というチョイスは中々ですね。近所迷惑を顧みずに、というのが青春らしくていいですね」
 辰也アシには冷静にVTRを分析、評価している曽根村進行役が酷く輝いて見えた。本人も少しヤケクソになってる気がする。
 そういえばこのVTR誰が取ってるんだろうなー、辰也アシがそんなことを考えているうちに、茜嬢のVTRがはじまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし、アカネか? 俺だけどさ……」
「その声はお兄ちゃんですね? お兄ちゃん、今日はどこに行きますか?」
「悪い、今日は体中が酷い筋肉痛でさ。外をうろつく元気も無いんだ……イテテテテ」
「そ、そうなんですか! 待っててください! 寮ですね? すぐ行きます!」
「いや、すぐ行くってどういうことだ?」
「ツー、ツー……」
「ってもう切れてるし……」

「というわけで愛しの妹がやってまいりました!」
「ああ、よく来たな……まあ確かにここならどこかにいく必要も無く遊べるな」
「いえ、今日は遊びに来たわけではありません」
「?」
「今日はズバリ、お兄ちゃんの身の回りの世話をするために来ました!」
「素晴らし……いや、そこまで酷いわけじゃないし……」
「いーえ、お兄ちゃんは無理するタイプですから。今日はアカネに全てを任せちゃってください!」
「ん……ホントにいいのか?」
「はい! というわけで、まずは耳かきをします」
「耳かき?」
「いっぺんやってみたかったんです! ささ、私めの膝の上へ……」

「はいお兄ちゃん、あーんしてください」
「そ、そんなことも!」

「お兄ちゃん、体を拭きますよ!」
「そ、そんなことまで……」

「それではお兄ちゃんが安眠できるように添い寝をば……」
「……(昇天)」

 

 

 

 

 

 

 

「あまーい!」
「そうですね辰也君。具体的には500甘くらいですかね」
「た、高い!」
「やりましたっ! アカネは全ての障害を乗り越えチャンピョンに立ちそうですっ!」
「末恐ろしいわねあのコ……ねえ、ボケ巫女?」
「そやなヘッポコメイド……ウチらがいがみ合ってる場合や無いかもしれへん」
 二人は影で協定を結んだ。彼女たちの関係は世界情勢の如く複雑なのだ。
 辰也アシは少し気になったことをこっそりと曽根村進行役に訪ねた。
「ところで、俺はさっきの子の方が甘いと思うんだけど? 今の子は甘いとはちょっと違うような……」
「いいんです、あなたは黙って叫んでなさい」
 なかなかの無理難題を押し付けられ、辰也アシは渋々頷いた。
 『実は私も妹好きなんです』とは口が裂けてもいえない曽根村進行役だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて最後はイオリンのVTRか……」
「どんな映像か楽しみだな」
「ああ、イオリンは今までの『緑の会』には無い神秘性があるからな」
「単に物臭なだけなんじゃないのか?」
「7の主人公よ……お前はまだ若いからな。分からないこともあるだろう」
「あ、ああ……そうなんだろうな」
「おい、始まるぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのー、維織さん?」
「……何?」
「その位置だと、腹筋をした時に唇が……」
「……何回しても悪くない」
「そ、そういう問題じゃ……」
「……今日はひたすらしてもらう」
「え!?」
「……」

「あのさ、維織さん……」
「……何?」
「どうして俺の下に滑り込んで本を読んでるんだい?」
「……顔を直視するのは、さすがに恥ずかしい」
「いやそんな事は聞いてないよ。このままだと、腕立てをするたびに唇が……」
「……ひたすら」
「マジですか……」

「えっと、維織さん?」
「……何?」
「唇が痛いんですけど……」
「……私も、少し」
「やっぱり? って維織さん、血が出てるよ?」
「……」
「ふ、冬だからカサついてるのかな? リップクリームある?」
「……いい」
「いや、でもせっかく綺麗な唇をしてるんだからさ。潤いを持たせないといけないし……」
「……舐めて」
「なんですと?」
「……恥ずかしいから、二回は言わない」
「いや、舐めるのは荒れには逆効果だから……」
「……じゃあ、こっちから舐める……」
「既に目的が違うじゃないかー!」

 

 

 

 

 

 

 

「……」
「……」
 曽根村進行役も辰也アシも、緑の会のメンバーも固まっていた。
 かろうじで我に返った辰也アシがいつもの台詞を言う。
「あ、あまーい!」
「そ、そうですね辰也君。具体的には……そ、測定不能ぐらいですかね」
「そ、そんな! まさかのサヨナラ負けですっ!」
「これが大人の恋……いつか、アイツと……」
「メイド、ウチらの相手はそこの妹やないみたいやで?」
「そのようね巫女。真の敵は、野崎、維織……!」
「……勝った」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして世界一不条理な謎の戦いは維織嬢の勝利に終わった。
 どうでもいいことだが、もともと彼氏のナンバーワンを決める戦いじゃなかったっけ? というツッコミをしてはいけない。彼女たちのやることこそが正義だからである。
 ちなみにモニタールームでは9の主人公が集団リンチを受けていた、ということを追記しておく。憐れなり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、では最後に連絡事項ですが……この『緑の会』に、新たなメンバーを加えるかどうかの審議をしたいと思います」
 スクリーンに一人の少女が映る。緑髪の頭から犬耳の生えた、芽森わんこ嬢である。
「い、犬耳……私でさえ手を出さなかったジャンルに!」
「これ以上ライバルを増やしたらアカン。ウチは反対や!」
「アイツ、獣っぽい女の子とか好きそうだし(前科アリ)……私もはんたーい」
「こ、これは新たなジャンルです! 早速今日お兄ちゃんに……」
「……もらった」
 五種五様の反応であるが、要は概ね反対ということだろう。ていうか維織嬢は何をもらったのか最早意味不明である。
「分かりました。ではわんこさんの件はそういうことで。何か他にありますか?」
 五人、無言を持って返答とした。曽根村進行役は大きく息を吐いた。
「それでは、これにて『緑首脳会談』を終わりたいと思います。皆さん、お疲れ様でした」
「「「「お疲れ様でしたー!」」」」
 ガラガラと席を立つ五人。この後の夕食の話をしたりと騒がしい。なんだかんだ言いつつも、ライバルである以前に仲の良い友達同士なのだ。五人は談笑をしながらホテルを後にした。

 

 

 

 

 

 

 


「いやー、今日も良かったなあ『緑の会』は!」
「まったくだ! 身も心も満たされるな」
「いや、身は満たされないんじゃ……」
「7の主人公……お前ももう少し大きくなれば分かるさ」
「……(虫の息)」
 この五人も概ね満足したようである。モニタールームを出て、それぞれの彼女の元へと足を速める。要はみんなで楽しく晩餐会、ということだ。

 

 

 

 

 

 


「俺……一体何をしていたんだ……」
 来た時に比べすっかり落ちてしまっている日を見て、辰也アシは悲しそうに呟いた。
 彼女たちは勿論、モニタールームで見ていただけの彼らまでハッピーエンド。だがずっと部屋でほぼ座っているだけだった辰也アシには何も残っていない。ぽっかりと胸に穴が開いたような感じだった。
 ぼんやりと夕日を見つめる辰也アシの肩を、誰かが叩いた。
 振り返ると曽根村進行役が寂しげな笑みを湛えていた。
「一緒に……飲みますか?」
 辰也アシは頷いた。
 ああ、サイボーグでよかった、人間だったら危うく泣くところだったぜ。そう思いながら、曽根村進行役と肩を組んで夕日へと歩き始めた。